はじめに
「日本人は農耕民族だから猫背が多い」「欧米人は狩猟民族だから姿勢がいい」
——このような言葉を耳にしたことはありませんか?日本人の身体的特徴を「農耕民族」という側面から説明しようとする試みは少なくありません。しかし、私はこの説明にずっと疑問を感じていました。
この「農耕民族」対「狩猟民族」という二項対立的な見方は、科学的に妥当なのでしょうか?今回は、この広く信じられている通説について、色んな角度から検証してみたいと思います。

「農耕民族」「狩猟民族」の分類は正確か?
まず考えるべきは、日本人を「農耕民族」、欧米人を「狩猟民族」と単純に分類すること自体が適切なのかという点です。
2025年現在、米だけでなく小麦の価格も大きく上がっておりパン屋さんやうどん屋さんが大変だというニュースを耳にされた方も多いのではないでしょうか?
実際には、世界の主要な穀物生産国を見ると、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ロシア、ウクライナ、フランスなど、いわゆる「欧米」の国々が上位を占めています。
特に小麦の生産においては、これらの国々が世界をリードしています。逆に言えば、「農耕」という観点だけで見れば、むしろ欧米の方が「農耕民族」と言えるかもしれません。
一方、日本にも縄文時代の狩猟採集生活から、中世以降の武士による狩猟文化、そして武道や格闘技の長い伝統があります。これらは身体能力や姿勢にも大きな影響を与えてきたはずです。
猫背と民族的背景の関係性
では、日本人に猫背が多いという観察(これ自体も検証が必要ですが)は、どのように説明できるのでしょうか?
現代のライフスタイルの影響
まず猫背の主な原因は、現代社会においてこのような要因が大きいと考えられます
- 長時間のデスクワークやパソコン作業
- スマートフォンの普及による「スマホ首」
- 運動不足と筋力低下
- 都市生活における身体活動の減少
これらの要因は民族的背景よりも、現代の生活様式に起因するものです。実際、欧米諸国でも同様の問題が報告されています。
文化的・社会的要因
姿勢に関わる可能性のある文化的要因にはどのようなものがあるでしょうか?
- 伝統的な座り方(床座と椅子座)の違い
- 謙虚さを美徳とする文化的価値観
しかし、これらは「農耕」というよりも、より広い文化的背景に関連しています。
科学的に見る身体的特徴の差異
人種や民族間の身体的特徴の違いは、以下のような複合的な要因によって形成されます:
- 遺伝的要因
- 集団ごとの遺伝的変異、L型(外交型)、S型(内向型)遺伝子による心理的な差異によるもの
- 環境的要因:
- 気候、食生活、生活環境
- 社会文化的要因
- 生活習慣、職業、身体活動
- 栄養状態
- 特に発育期の栄養摂取
- トレーニング
- スポーツや身体活動の種類と量
これらの要因が複雑に絡み合って個人の身体的特徴が形成されるため、単一の要因(「農耕民族」など)に帰することはできません。また、個人差は集団間の差よりも大きい場合が多いことも忘れてはなりません。
近代以降の日本人の身体的変化
戦後の日本人の平均身長は著しく伸び、体格も大きく変化しました。これは主に栄養状態の改善によるもので、遺伝的な「農耕民族」的特徴があったとしても、環境要因によって大きく変化しうることを示しています。
また、日本人アスリートの国際大会での活躍を見ても、特定のスポーツにおいて世界トップレベルの成績を収めており、「身体的に劣る」という見方は成立しません。
まとめとして
「日本人の猫背は農耕民族だから」という言説は、科学的根拠に乏しく、むしろ歴史的・文化的文脈から生まれた思い込みである可能性が高いと言えます。
現代の猫背問題は、民族的背景よりも、現代のライフスタイルや生活習慣に大きく影響されています。健康的な姿勢を維持するためには、定期的な運動、姿勢の意識化、適切な作業環境の整備など、個人の取り組みがより重要です。
民族や人種に基づく単純な「決めつけ」を超えて、より科学的な視点から身体と健康について考えることで、より効果的な対策を講じることができるでしょう。
いかがでしたか?この記事が「農耕民族」「狩猟民族」といった単純な二項対立を超えて、より科学的な視点から身体的特徴を考えるきっかけになれば幸いです。皆さんのご意見やご経験もぜひコメント欄でシェアしてください!
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